李叔同。天津の裕福な家庭の妾妻の子として育った彼は、早くから芸術的才能を開花させ、25歳で日本に留学、東京美術学校に籍を置き、西洋画や音楽を学んだ。書、篆刻、文学でも優れた天分を発揮し、足掛け6年に及んだ日本滞在期間中に、劇団「春柳社」を設立するなど、その生涯に残した芸術的足跡は多岐にわたっている。同じく日本留学経験を持つ作家・魯迅も李叔同に心酔し、周恩来、鄧小平、江沢民らも彼を敬愛していたという。様々な分野で多くの後進を育て、現代中国芸術の礎を築いた李叔同は、1918年仏門に入り出家、仏道修行に捧げた。その後の彼は“弘一大師”と称され、仏教徒からは“重興南山律宗第十一代祖師”と崇められている。そんな李叔同が歩んだ激動の人生を、情感豊かに描いたのが本作だ。
主演は、中国のベテラン俳優プー・ツンシン。彼はその演技で、見事第11回中国電影華表賞最優秀男優賞を受賞、第25回中国電影金鶏賞最優秀主演男優賞にもノミネートされた。李叔同の妻となる日本人女性・雪子を演じるのは、日本でもお馴染みのビビアン・スーだ。才気に溢れた若き日の李叔同が突き進んだ芸術の道、彼を支え寄り添う雪子の純粋な愛、そして全てを捨て仏道の静謐な世界に身を置いた晩年…中国の著名な作家・ウー・ホァの小説をもとに、李叔同=弘一大師の人となりや思想、哲学をつぶさに描いた本作は、前述の第11回中国電影華表賞優秀作品賞を受賞、カイロ国際映画祭、ドバイ国際映画祭でも上映され高い評価を受けた。中国映画生誕100周年の記念すべき年に完成をみた本作が、中国政府によってその年の優秀作品に選出されるという栄誉に輝いたという事実は、本作が躍進を続ける中国映画の最高峰に位置するものであるという証明に他ならないだろう。本作は、中国近代芸術の先駆者にして、現代の中国美術界に多大なる影響を及ぼした孤高の天才芸術家の波乱に満ちた生涯を描いた珠玉の感動作である。