パレスチナとイスラエルを巡る問題は複雑で、長い歴史的な背景を持っており、日本人にとっては理解し難い側面がある。本作は主人公のガーダ・アギールを通じ、戦火にさらされながらも大らかにたくましく生きるパレスチナの人々の姿を、女性の視点から描いた傑作ドキュメンタリーである。
1988年7月、ひとりの女性ジャーナリストが戦火のパレスチナで取材を始めた。古居みずえ、当時40歳。37歳の時、原因不明の病に冒され、1ヶ月後には歩行器なしでは動くこともできなくなる。その時古居は、これまで自分の人生に真剣に向き合ってこなかったことを悔やんだ。奇跡的な回復を遂げた彼女は「一度きりの人生。何かを表現したい」と、それまでのOL生活を捨て、女性ジャーナリストとして自らの人生を大きく転換させる。93年、古居はパレスチナ・ガザ地区の難民キャンプで、当時23歳のガーダと出会う。封建的な社会の中で、自立する道を模索する彼女に興味を抱いた古居は、ガーダにカメラを向けた。以来12年間、記録された映像は500時間以上。そこから完成させた本作では、ガーダの結婚、出産、そして彼女が失われた故郷を求める様子が描かれている。古居との出会いを通じてジャーナリズムに目覚めたガーダは、48年のイスラエル建国に伴い、故郷を奪われたパレスチナ人の体験と暮らしについての取材を始める。相手は祖母と同じ年代の女性たちだ。パレスチナの豊かな自然を背景に映し出される、歌い継がれてきた素朴な詩歌。そして逆境と呼ぶにはあまりにも過酷な状況を乗り越えながら生きる、原初的ともいえる彼女たちの生命力は、鮮やかな色彩を放ちながら、我々に“生きる”ということの実相を投げかけてくる。
封建的な男性社会であるパレスチナにおいて、ここまで女性たちの実像に密着した作品は、古今例がない。また老女たちが披露する詩歌は、言語学的、文化人類学的にも極めて貴重であると言われている。そういった意味でも本作は、女性である古居だから撮影する事が可能だった、貴重な映像の宝庫だと言える。
●古居みずえ プロフィール
1948年、島根県出身。フォトジャーナリスト。アジアプレス・インターナショナル所属。JVJA(ビジュアル・ジャーナリスト協会)会員。1988年よりパレスチナのイスラエル占領地を訪れ、パレスチナ人による抵抗運動・インティファーダを取材。パレスチナの人々と生活を共にする中で、特に女性や子どもたちに焦点をあて、取材活動を続けている。93年にはボスニア・ヘルツェゴビナ、98年にはアフリカのウガンダ、インドネシアのアチェ自治州、2000年、02年にはタリバン政権下とタリバン崩壊後のアフガニスタンを訪れる。イスラム圏の女性たちの取材や、アフリカの子どもたちの現状を取材、NHK教育「ETV特集」、NHK総合「アジア人間街道」、NHK-BS1「日曜スペシャル」「BS23ワールドニュース」、テレビ朝日「ニュースステーション」「報道ステーション」他、新聞、雑誌などで発表。
また、ニコンサロン、コニカプラザなどで写真展を開催。2005年には第1回DAYS国際フォトジャーナリズム大賞 DAYS審査員特別賞を受賞。
著書に『ガーダ 女たちのパレスチナ』(岩波書店)、『インティファーダの女たち パレスチナ被占領地を行く』(彩流社)、写真集に『パレスチナ 瓦礫の中の女たち』(岩波書店)など。
●受賞歴&映画祭
●2006年 第6回石橋湛山記念早稲田ジャーナリスト大賞 公共奉仕部門受賞
●2006年 第12回平和・協同ジャーナリスト基金賞 荒井なみ子賞受賞
●2006年 テヘラン・ファジル国際映画祭 正式招待
●2006年 香港国際映画祭 正式招待
●2006年 レフュジー・フィルム・フェスティバル 参加
●2006年 KAWASAKI しんゆり映画祭 参加
●2005年 プサン国際映画祭 正式招待